日本のアート作家におすすめのSNSは、どれか
「どのSNSを選ぶか」より先に決めるべきことがあるという話
私は、現代の作家がアートで食べていくにはどうするべきかを研究しています。火曜日は、その研究から、作家活動の判断をひとつずつ検証する日にします。第1回は、いちばん多く聞かれる質問からです。
おすすめのSNS
おすすめのSNSを一つ挙げることはできます。ただ、その答えは期待しているものと少し違うかもしれません。
アート作家にとって最適なのは、特定のSNSではなく「制作過程を見せられる場所」と「連絡先リスト」の二点セットです。
制作過程を見せる主戦場 Instagram / YouTube / Threads のいずれか一つ
連絡先リスト メルマガ、またはそれに準ずる登録制の接点
この結論に至った理由を、海外作家の収益構造を調査したデータから順に説明します。
SNSで「食べている」作家は何をしているか
SNSで生計を立てている海外のアート作家6名の収益構造を、公開されているインタビューやデータから調べました。ジャンルはデジタルイラスト、水彩、風景写真、コミックとばらばらでしたが、構造は驚くほど共通していました。
無料側は完成作品ではなく「制作の過程」を公開している
有料側は販売は常時開かれておらず、登録者だけに届く形になっている
個別に見ると、設計が浮かびます。
Kelogsloops氏はプリント販売を常設していません。「発売通知を受け取るためのメーリングリスト」への登録を挟むことで、販売が「いつでも買える商品」から「告知を待つイベント」に変わっています。
Alice Oseman氏は本編を1ページも有料化していません。支援者に提供しているのは「早期公開」、つまり課金対象がコンテンツではなく時間差に置かれています。この形で月$3,849(約60万円)を得ており、本人は「最も安定した収入源」と述べています。
Proko氏の無料と有料は、テーマが同じで深さが違います。無料動画は興味を引くのに十分なだけ、有料講座では同じ概念に一章を割いて深掘りする。「集客用」と「課金用」をコンテンツの種類ではなく深度差で分けています。
一方で、こうした構造を持たない場合の数字も出ています。Patreonの統計では、月およそ17万円(米国の最低賃金相当)以上を得ている作家は全体の2%未満でした。フォロワーが多いことと、食べていけることは、別の問題ということがわかります。
分解した成功事例に共通する2つの機能
6名の事例を機能で分解すると、次の2つに整理できます。
① 過程の公開(集める機能)
完成作品だけを投稿すると、見る側の反応は「上手い」で終わります。制作の過程(下描き、色を選ぶ迷い、失敗した箇所)を見せると、見る側は「次はどうなるのか」と戻ってくる理由を持ちます。
これはジャンルを問いません。Heaton氏なら撮影地へ向かう道のり、Loish氏ならスケッチから完成までの変化。過程は、どの作風にも必ず存在する素材です。
② 登録制の接点(受け取る機能)
SNSのフォローは、アルゴリズムの変更ひとつで届かなくなる接点です。6名が例外なく持っていたのは、アルゴリズムを経由しない連絡手段(メルマガ、通知リスト、Patreon)でした。
過程の公開で人が集まり、登録制の接点で関係が続く。販売はその先に置かれています。
日本での実測(風茜の場合)
海外の話だけでは実感が湧きにくいと思うので、私のデータを一つ置いておきます。
アート作家向けの発信を複数のプラットフォームで続けてきた中で、メールマガジンへの登録が最も多く発生したのは、ThreadsとYouTubeでした。(substackは現在実験中)。
これは、多くの作家が主戦場にしているInstagramとXではありません。意外に思われるかもしれませんが、構造で見ると理由は説明がつきます。
Threadsが機能した理由は、先ほどの2機能をテキストで両立できるからです。制作や仕事の裏側にある「思考の過程」を言葉で見せられる場であり、そこからリストへの導線が文章の流れの中に自然に置ける。加えて、Instagramのアカウントとつながっているため、Instagramでアートに関心を持った層が流れ込んでおり、アートが好きな人が想像以上に多くいる場所でした。
YouTubeが機能した理由は、過程を最も深く見せられるからです。長尺で工程や考え方を追った視聴者は、登録という次の一歩に対する心理的な距離がすでに縮まっています。
逆に言えば、InstagramとXで登録が伸びなかったのは、プラットフォームが劣っているからではなく、完成品の拡散に最適化された場では「戻ってくる理由」と「登録する理由」が作りにくい、という構造の問題だと解釈しています。作家の多くがこの2つに集中しているのは、周りがそうしているからであって、リード獲得のデータに基づく選択ではないというのが、実測を経た私の見立てです。(実際、美大生の娘も入学時にXとInstagramを開設するように言われて、このアカウントに自分の展覧会告知を出しています。これは周りがそうしているからそうしたと言っていました。)
では、日本の作家はどのSNSを選ぶべきか
この2機能を前提に、主要プラットフォームを「過程の公開に向くか」「リストへの接続に向くか」で整理します。
読み方の注意点を2つ。
上記の表は、◎の数を数える表ではありません。全部をやる必要はなく、「過程の公開◎が一つ」+「リスト接続○以上が一つ」の組み合わせが成立すれば十分です。事例調査でも、6名の主戦場は基本的に一つでした。
なお、この表は一般論としての評価です。前章の実測が示す通り、ThreadsとYouTubeは「リスト接続」で表の評価以上に機能する場合があります。評価記号よりも、次章の「選び方」との掛け合わせで判断してください。
第二に、Pinterestの位置づけは特殊です。SNSというより検索エンジンに近く、投稿が数ヶ月〜数年単位で流入を生み続けます。即効性はありませんが、他のSNSが「投稿した日だけ届く」のに対し、Pinterestは「置いた資産が働き続ける」場所です。(私の場合、長いもので5年働き続けた画像がありました)。またPinterestはボードに投稿していくので、これを展示室に見立てて、自分の作品をキュレーションすることも可能です。過程の公開の主戦場にはなりませんが、リスト接続の補助線としては最も息が長い選択肢です。
選び方 3つの問い
どれを主戦場にするかは、次の順で決まります。
① あなたの制作過程は、映像・画像・言葉のどれで最も伝わるか
手元の動きに見応えがあるならYouTubeかリール。思考の変遷が面白いならThreads。
② 週に何回、無理なく続けられるか
YouTubeは週1本でも負荷が高く、Threadsは短文なので頻度を上げやすい。続かない主戦場は、どれほど「向いて」いても機能しません。
③ 登録制の接点を、いつ用意するか
答えは「主戦場を選んだのと同時」です。フォロワーが増えてからではありません。Kelogsloops(オーストラリアのメルボルンを拠点に活動するアーティスト)の通知リストも、Oseman氏の早期公開も、リストが先にあるからこそ機能する設計です。リストがない期間の集客は、アルゴリズムに預けた貯金と同じで、引き出せる保証がありません。
まとめ
おすすめのSNSは一つに決まらない。決まるのは「過程を見せる場所 × 登録制の接点」という組み合わせ
フォロワー数と収益は別問題(月17万円以上は2%未満という統計)
海外6事例の共通構造: 無料側=過程の公開、有料側=登録者限定の接点
筆者の実測では、日本でリストが伸びたのはThreadsとYouTube
主戦場は一つでいい。選ぶ基準は「過程の伝わり方」と「続けられる頻度」
リストは、始めるのと同時に用意する
どのSNSが正解かという問いは、実のところ「あなたの過程はどこで一番伝わるか」という問いに置き換えられます。その答えは作家ごとに違い、だからこそ、他人の正解をなぞる必要もありません。
制作過程をどう言語化するか、リストに何を書くか。この続きは、また別の回で。
作家活動の判断で迷っていることがあれば、このメールに返信してください。今後の火曜日の題材として、匿名で取り上げることがあります。






非常に興味深い分析です。
やはり動線を考えることが大事ですね。自分の場合はどうすべきかを考えるきっかけになります。
ありがとうございます!
アルゴリズムに影響を受けにくい設計って、めちゃくちゃ大事だなぁって思います。
Xは今、イーロンに思うようにされているとかなんとか,,,投稿しても、フォロワーまでうまく届かないって聞いたことがあって💦
そう思うと、substackって、芸術(特に過程の見せ方)と相性がいいような気もします✨